アンジェリーナ・ジョリーさんが健康な乳房切除・再建に続き、卵巣・卵管切除をしたことをご存知でしょうか。
遺伝性乳がん・卵巣がん症候群とはどう言うものなのか。ジョリーさんはなぜ卵巣・卵管切除まで行ったのか。
こちらは2016年10月の慶應義塾大学医学部産婦人科 平沢晃先生のお話を元に追記し再投稿致しました。
どんな病気でも遺伝因子と環境因子が関係
アンジェリーナ・ジョリーさんはがん抑制遺伝子「BRCA1」に生まれつき異常があり、何もしなければ87%の確率で乳がんに、50%の確率で卵巣がんになると診断されました。ジョリーさんの母親、祖母、叔母も乳がん卵巣がんで亡くなっています。
タバコと肺がんの関係を見てわかるように環境は大きくがんに関係しますが、全員がなるわけではありません。
ジョリーさんのような遺伝性乳がん・卵巣がん症候群(HBOC)ではBRCA1、BRCA2と呼ばれるがん抑制遺伝子に変異がある場合があります。
遺伝子の変異を受け継ぐと女性では乳がん・卵巣がん・卵管がん、若年性・両側性・トリプルネガティブの乳がんになったり、男性では前立腺がん・膵がん・男性乳がんになる確率が高くなります。
発がんには,がん抑制遺伝子の対立遺伝子の両方が変異あるいは欠失などにより機能を失う必要があるとする説をTwo-hit-theory
(2ヒット説)と言います。
父と母から貰った二つの染色体のどちらも異常なければ環境因子によってダメージを受けても(1hit)表面には出てきません。
もう一度ダメージそ受け(2hit)両方の遺伝子がダメージを受けることでがんになると言われています。
最初から遺伝子に異常がある場合は1hitでがんになるため、若くしてがんになる確率が高いといえます。
アンジェリーナ・ジョリーさんは先ほど出て来たBRCA遺伝子検査を受け、すでに1hitの状態である事がわかったため乳房切除・再建を行ったと考えられます。
リスク低減卵管卵巣摘出術(RRSO)
ジョリーさんが最初に行った手術・リスク低減乳房切除術(RRM)は手術後の乳がん発症リスクを抑えます。
しかしその数年後行ったリスク低減卵管卵巣摘出術(RRSO)は卵巣がん・乳がんの発症リスク低減のほか、卵巣がん・乳がんの死亡率のみならずあらゆる死亡も低減すると報告されており、現時点でBRCA1/2遺伝子に変異を持つ保持者に対する最も効果が高いがん一次予防法のようです。
月経がある女性がRRSOを行うと更年期障害のような症状が出ることもあり、長期的には脂質異常症や骨粗鬆症などを発症しQOLの低下を招く可能性は高くなります。
しかし、術後の女性のヘルスケアを十分に考えQOL向上ができれば、RRSOはアンジーの様に遺伝子に異常を持つ人にとってとても有用性の高いものと言えるでしょう。
日本でのRRSO
HBOC患者さんに対するRRSOの有用性は日本でもすでに確立しています。
今年6月、大口善徳厚生労働副大臣は厚労省で、遺伝性の乳がん・卵巣がんの予防に向けた乳房、卵巣・卵管切除について保険適用を求める要望を受け、「患者の予後を改善させる(発症の可能性を大きく減らす)治療という観点から、中央社会保険医療協議会(中医協)で検討する」と答えました。
今後の保険適応に向け大きく前進したと考えられます。
乳房再建はすでに保険適応に
2006年に乳房切除術後の自家組織による乳房再建の一部保険適用が認められ、2013年には人工乳房(インプラント)による乳房再建に関しての保険適用が認められるようになりました。
ただし、全ての再建術が保険適用と言う事ではないので受診したお医者さんと良く話し合う事は必要です。
乳がん手術後すぐに再建手術を受ける事も可能で、様々な精神的身体的な問題を回避する事も可能になります。
しかし再建時期についてはご自身のタイミングで大丈夫ですから、焦ってすぐに行う必要は有りません。
そして、乳房再建は必ず行わなければならないものでは有りません。
保険適用になっても、再建手術は気軽なものではなく費用も時間もかかり、体や生活面へのリスクもあります。
手術された方用のブラジャーや下着、前回ご紹介した入浴着も有ります。
乳房再建に関してはしばらくしてからでも可能です。
乳がんの手術が決まったらご自身やご家族でじっくり考えて決定した方が良さそうです。