エクオールの乳がん抑制作用に関する文献的考察

エスロトゲン作用を持ちながら、何故エクオールは抗エストロゲン作用を発揮するのか。

講演会リポート最終回は第15回更年期と加齢のヘルスケア学会学術集会において私が一般演題で発表した演題。

多くの文献を読み解き考えてみました。

米国の調査による抗がん作用

1990年頃の米国はがん死亡率が高く、米国国立がん研究所は「デザイナーフーズ・プルジェクト」を立ち上げ、がん予防効果を持つ食品を調査、大豆は予防効果を持つ食品の最上位の一つにランクされました。

米国が大豆に目をつけたのは、当時の日本の乳がん・前立腺がんの罹患率は米国の1/5〜1/3であったためです。

その後世界各地で大豆製品と乳がんに関する多くの研究が行われてきましたが、結果にバラツキがあったため、大豆は乳がんに効果的かどうかは懐疑的でした。

アジア女性は乳がん抑制効果あり

多くの文献から、欧米女性は乳がんの抑制効果は認められなかったのに対しアジア女性には効果があるという文献が多く、日本の国立がん研究センターが2014年に発表した文献でも「日本人女性においては」と限定し大豆摂取による乳がん予防の可能性を示しています。

このように大豆製品摂取と乳がん抑制効果の間には地域差が関係すると考えられます。

ではその地域差は何によるものなのか。

一つは摂取する形。味噌や醤油に含まれる「アグリコン型イソフラボン」は身体に吸収しやすい形に代謝されます。

二つ目は特定腸内細菌によるさらなる代謝物「エクオール」の存在です。

エクオール産生者頻度と乳がん抑制作用の相関

アグリコン型イソフラボンには3つの代謝物が存在しますが、その一つダイゼインが特定の腸内細菌によって変化するエクオールはアジア地域ではその産生者が約50%なのに対し、欧米では20〜30%です。

乳がん抑制効果がある地域とエクオール産生者が多く存在する地域には相関が見られることから、同じようにアグリコン型イソフラボンを摂取してもさらにエクオールに代謝できるアジア女性が抑制作用を示したのではないか、と考えられます。

鍵はエストロゲンβ受容体の働き

エクオールがエストロゲンβ受容体に高い親和性を持つことは以前よりコラムでお伝えしていますが、乳がん細胞に関してこのβ受容体は「増殖抑制」に働きます。

乳がんの約70%がエストロゲンによって細胞増殖するタイプですが、エクオールは生理活性がエストロゲンの1/1000〜100と力が弱いため受容体を奪い合い生理活性を弱めること、さらに細胞抑制に働くβ受容体に親和性があることの二点から、以前より言われている大豆製品の乳がん抑制作用の立役者は「エクオール」なのではないかと推測できるのではないでしょうか。

 

講演内容は原稿を執筆し論文にまとめ学会誌に発表となりますが、その前にコラムにて簡単にお伝えしました。