女性ホルモン補充療法の実際

はやしたくみ女性クリニック院長 林 巧先生
はやしたくみ女性クリニック院長 林 巧先生

先日行われた勉強会での特別講義、札幌の「はやしたくみ女性クリニック」院長 林 巧先生の「女性ホルモン補充療法の実際」から内容をピックアップしました。(一部私、佐藤の考えが入っている部分があります。ご了承ください)

どうして女性の健康寿命は男性に比べて相対的に短いのか

女性は閉経すると、今まで体を守っていたエストロゲンが急激に枯渇します。

男性に多い疾患は悪性腫瘍、心筋梗塞など直接死の転機を取り得るものであるのに対し、女性に多い疾患は骨粗鬆症、関節症、骨折、脂質異常症など生活の質(QOL)を低下させるものとなっています。

つまり女性はこれらの疾患にかかりながら、しばらく過ごしている人が多いという事です。

更年期症状が遅れて現れる人もいます。60〜70歳で出てくる更年期症状もあります。

更年期以降の女性に特徴的な心理的変化

更年期の女性のハートは実に壊れやすいものとなっています。

今までは普通だったダメージも、この時期の女性はそれを跳ね返す事ができずペチャンコになってしまいます。

更年期の症状というとほてり・のぼせやホットフラッシュ、肩こり、冷え、判断力の低下、胃腸症状など様々ですが、精神的症状である不安感、無気力、不眠、うつ状態などもあります。

こんな症状が出た時はメンタルクリニックへ行く前に婦人科へ行ってみると良い場合もあります。

人として生きる必要レベルにまで引き上げるのがHRT

日本は海外に比べホルモン補充療法(HRT)を行っている人の割合が大変少ないです。

他の疾患が隠れていない限りHRTはかなりスッキリと症状を取ってくれます。

日本では「自然ではないから」とHRTを拒んだり恐れたりする方が多数いますが、昔と今では状況がかなり変化しています。

太古の昔からほぼ閉経年齢は変化していません。平均寿命が伸びてしまった事が生物学的に自然ではない状態となっているのではないでしょうか(佐藤考)

50〜60歳が平均寿命だった頃はエストロゲン減少の影響など知る由もありませんが、今は閉経後35年過ごさなくてはなりません。

実は男性もエストロゲンを持っています。閉経女性は男性よりもエストロゲンが少ないのをご存知ですか?

つまり、男性の持っているエストロゲン量が骨を維持し血管をしなやかにし、人として生きる最低レベルだとするなら、女性はそれすら失ってしまっている事になります。

2017年度版ガイドライン「乳がんに及ぼす影響は小さい」

HRTのホルモン量は非常に少なく、治療を行ったからと言って筋腫や内膜症に関わる値ではありません。

人として必要なレベルなので恐ろしいものではないのです。

今年、ホルモン補充療法の新たなガイドラインが出ましたが、あらゆる更年期症状・障害に対し改善効果が得られている事が書かれています。

また、乳がんに対する問題も「乳がんリスクに及ぼす HRTの影響は小さい」とはっきりと書かれました。

HRTを行う事を本人が望み、効果がリスクを上回り、医師ときちんと話し合えていればいつまでも継続可能、とまで書かれています。

今後HRTは、女性にとって最高の一生涯続ける事のできるテーラーメイド医療となっていくのではないでしょうか。