エストロジェンと脳

10/6、7の日本更年期と加齢のヘルスケア学会学術集会の中から、横浜市立大学名誉教授・田中クリニック横浜公園 院長 田中冨久子先生のランチョンセミナーよりお届けします。

エストロジェンが最も古いホルモン

エストロジェンの受容体(くっ付く場所)は約5億年前のナメクジウオにも存在し、その後進化の過程で一度たりとも途絶えた事がなく、動物全てに存在します。

つまりこの受容体に結合するエストロジェンは全てのホルモンの中で最も古く、そしてその受容体は最も古い型で有ると結論されました。

「このことは男女を問わずエストロジェンとその受容体が生理機能維持の中心的役割を果たして来たことを示しており、エストロジェンが現在女性ホルモンと呼ばれることに多少の違和感を感じます。」と、田中先生はお話されます。

全ての動物に男女を問わず有るエストロジェン。このホルモンが果たす役割はとても重要です。

情緒と記憶

人間の脳には扁桃体という部分が有り、そこでは怒りや恐れなどの情動を作っています。

ドーパミン、セロトニンと言った神経伝達物質がこの扁桃体をコントロールしています。

またアセチルコリンは脳全体を支配し、学習能力をアップさせています。

エストロジェンはこのドーパミン、セロトニン、アセチルコリンの脳内神経細胞受容体に結合する事で意欲や感情の平穏の維持、記憶機能の活性化をしています。

体温調節

一般にホットフラッシュは体温調節の幅が狭くなると言われており、汗をかく体温のスイッチが普通の人より低くその為大量の汗をかくと言われています。

また体温が一気に上がると今度は下げなければならないという指令が下り、体温を急降下させ「冷え」を感じます。

GnRH(性腺刺激ホルモン放出ホルモン)はこの体温調節の幅を狭くする事がわかっています。

エストロジェンが出るとGnRH神経細胞繋がるキスペプチン神経細胞受容体にエストロジェンが結合し、GnRHの分泌を制御し月経の周期がやって来ます。

エストロジェンが出ている人が体温調節の幅が狭くならないのはこのためです。

閉経とともに…

卵巣を摘出した小動物ではドーパミン、セロトニンが低下し動かなくなり、情緒不安定、イライラ、意欲低下など不穏状態となった様です。またアセチルコリンの神経細胞を切るとやはり動かなくなってしまいます。

エストロジェンを投与することで海馬(脳の記憶を司どる場所)の神経細胞や新しく生まれ変わる細胞の数が増加、ダメになる細胞の数は減少したとの実験結果を得ました。

またGnRHを中隔野に投与する事で皮膚血管拡張運動を生じさせる視床下部閾値が下がった、との結果も得ました。

つまり以上の事から、人では卵巣のエストロジェン分泌停止(閉経)とともに

  • ホットフラッシュ
  • 意欲喪失やうつ
  • 記憶機能の低下

などが出現する事がわかり、これを抑えるにはエストロジェン(HRT)の効果は高いと考えられます。

 

(今回田中先生が「エストロジェン」と表記・お話されていた為そのまま記載しましたが、エストロゲンの事です。また「ニューロン」である部分をわかりやすく「神経細胞」と記載致しました。)