最近の乳がん診療〜メンタルケアと正しい情報選択に向けて〜

12月9日、「最近の乳がん診療〜患者のメンタルケアと正しい情報選択にむけて〜」と題する「女性によりそう医療セミナー」を受講して来ました。お話は平塚共済病院外科 谷 和行先生です。

乳がん検診の短所

今や40代では全体の半数が罹る乳がん。

早期発見であれば約90%の人が5年経っても生きていられるというデータが有り、罹患数は急激に増えているのに比べ死亡数は相対的に少なく、乳がん治療を行った人の約85%が元の生活に戻っています。

日本の検診率は他の外国に比べて半分以下(約35%)と少ない状況です。

がん検診の目的は、そのがんによる死亡率を減少させる事です。

検診で「要診断」と判定がつくと「がん」と診断を下されたかの様にショックを受ける人も多く、精神的負担を感じる人もいるようですが、検診の判定はがんの確定ではない事を理解してください。

検診で「要診断」と言われ専門医による診察を受け、がんと確定する人の割合はそのうち3%くらいしかいないようです。

「がん」と診断されたら

「がん」=「死病」というイメージは未だに根強くあるようです。数々の困難を前向きに乗り越えて来た人でさえ「がん」という言葉に押しつ潰される事があると言います。

がん治療は近年目覚ましく進歩し、乳がんを含め多くのがんは治癒する事も多くなって来ました。

「人生には誰しも限りがある。良性の病気や不慮の事故でも命のリスクは少なからずある。

がんは治せる、他に怖い病気はたくさんある、「がん」だけを恐れることはない!」と谷先生はおっしゃいます。

患者力を高めよう(ヘルスリテラシー)

今は情報が氾濫し溢れている時代。ネットを開くとたくさんの情報が手に入ります。マスメディアは不安を煽る報道を行う事が多々あります。

人は自分にとって都合の良い情報は信じやすく、都合が悪い情報は潜在的に否定してしまう傾向があります。

がんと診断されると判断力が低下し、無意識に目先の苦痛の少ない方法を正しいと判断してしまいがち。

しかし情報の中には営利目的で伝達してくるケースも多くあります。

「○○でがんが消えた!」「△△で末期ガンから生還!」などとセンセーショナルな表現がされているものは疑ったほうが良いでしょう。

健康に関する情報にいかにアクセスするか、その情報をどう使うか。

情報を理解し、自分の中で消化し、価値観と照らし合わせ、活用するかどうかを見極める能力を養う事も大事です。

笑い・運動の効果

「笑い」は人間だけが感じる事ができる感情です。

笑いにより体内の免疫細胞(NK細胞、T細胞、B細胞など)が活性化する事から「笑顔」はがんに対する最良の武器と言えます。

また、乳がんと診断された後の運動(身体活動)は乳がんの死亡を有意に減少、適度の運動は乳がん手術後の肩関節の拘縮やリンパ浮腫発症率を有意に下げるといったデータがあります。(2018年版「日本乳癌学会 乳癌診療ガイドライン」「日本リンパ浮腫学会 リンパ浮腫診療ガイドライン」より)

この様な事から、骨転移など弱い部分がある場合はそのぶいに負担が少ない様にし、無理のない程度の運動を継続する事は重要です。

何のために、自分が真に望むものは

がんの治療方針は複数あります。どの治療が自分にとって一番適当であるかは患者さん自身が決定しなくてはなりません。

患者力を高める上でも「対話」はとても重要です。対話が無いと人は短絡思考に陥る事が多くなり判断を誤ります。

家族や友人との「対話」の中で自分が真に望んでいる事が見えてくる事があります。

たくさんの対話の中で本人が真に望む治療方針が決定し、それが主治医の意見と食い違っった場合はその旨を伝える事も大事です。

治療は家族や医療者のために行うものではありません。

仮に手術や抗癌剤など積極的治療を受けなくても、緩和医療の提供もあります。

治療は病気と戦うものではありません。元の生活・元の状態に少しでも早く戻すためのもの。

患者さんはどんな治療を受ける際にも、その治療を受ける代償に何が得られるかをよく考える必要がある様です。

「医療とは医学を元に個々の患者の希望・ニーズに添える様に診断・治療・予防などを実践する行為であり、humanismである」

一人一人の価値観は違います。自分にとって最善の治療法はその人の胸の内にあります。